保護者は、どのように接してあげるべきなのか?

どんな困難な状況でも、自ら主体的に want (〜したい) に持っていける子どもを育てる。そのためには、どんなサポートが必要なのか?どんな関わり方が子どもたちの成長を加速させるのか?を考えていきたいと思います。

子どもたちは日頃、オンザピッチでは指導者の要求に対して、彼らなりに悩み、迷いながら良いプレーを目指しています。そして家に帰った時に、保護者が彼らに対してどのような接し方をしていくのかは、子どものモチベーションはもちろん、彼らの人格を作る上で非常に重要なことです。

オフザピッチも含めて、全ての環境で完璧を求められることほど彼らを苦しめることはありませんし、彼らの行動を否定したり詰問で追い詰めてしまっていては、プレッシャーで押し潰されて逆効果になりかねません。だからと言って興味や関心を示さないことも、決して良いサポートとは言えないと思います。

私が考える保護者の大きな役割は、オフザピッチでも子どもたちを常に 「前向きな気持ちにさせてあげる」サポートではないかと思います。

▼ 前向きな気持ちとは何でしょうか?

それは一言で言えば、「上手くいっている、成長している、前に進んでいる」といった実感を本人に抱かせることだと考えています。「人は前に進んでいる実感を抱くことさえできれば、目の前の困難にも負けずに立ち向かうことができる」と私は思っています。そのためには、子どもたちが悩んだり迷ったり、弱気な気持ちになる時があれば、頭で考えることも大事ですが、それと同時に、すかさず止まらずに動くことも必要になっていきます。そのようなキッカケを与えることが出来るのも、保護者の大きな役割ではないでしょうか?

▼ 具体的にどのような方法があるのでしょうか?

以下は、私自身の過去の経験から、教えてきた子どもたちの中で、「技術だけではなく、サッカー選手として、すごく成長していくスピードが早いと思った選手」の保護者の方に、多く共通している部分です。そこでは、大きく3つのことを育んでいます。


1. 考える力 を育む

何を考え、練習をしているのか?なぜ、今それを行なっているのか?常に「何の為に?」という目的を持つことが自然とできているのか?その「考えて行動する習慣」の形成こそが、「セルフコーチング能力」のカギだと思っています。

▼ 「考える力」を育むための聞き方は?

子どもたちの「考える力」を育むために、保護者の方は子どもに、こんな聞き方をしてはどうでしょうか?

「今日の練習で、コーチはどんな話をしていた?どんな面白いことを話していた?覚えてることでいいから教えてほしいな。」

「コーチは○○するときには、○○が大事だと話していた。」

「それどういうこと?教えて教えて?」

「○○すると、○○になっていくから、○○のことを大事にするということやと思うわ」

「そうなんや。勉強になったわ。またサッカーのこと教えてな。」

こんな何気ない会話を続けるだけで、自分がコーチの話を聞くだけでなく、毎回伝える人(親)がいると思い、「聞くことが大事なのではなく、聞いたことを考えることが大事」だと習慣づいていきます。最初はまったく関係ないことを話したりするでしょうが、ここで大切なことは聞いたことに対して否定をしたり、聞いていないことに怒ったりすると、次からは「聞かなければならない・・・」と must  (〜しなければならない) にすり替わってしまうので注意が必要です。

▼ 「周りを観察して考える力」を育むための聞き方は?

また、「周りを観察して考える力」を育むために、こんな問いかけも効果的です。

「○○くん、今日どんなプレーしていた?」

「○○くんは、○○のフェイントばっかりやっている。」

「何で、そのフェイントばっかりやっているの?」

「あっちにいくフリして抜けなくても、ボール取られないようにできるからかな!?でも前には進まないねん。」

このような会話から、周りを観察することを習慣づけさせて、周りが「なぜ、そんな行動をしているのか?」を考えさせるキッカケを与えます。ここでも他者との比較で、ああしろこうしろと言うのは控えましょう。「あなたも、○○くんみたいにやったらいい。」などついつい言ってしまいがちですが、他者との比較を持ち出すと、観察したことを話さないどころか、周りを観察することをやめてしまいます。

周りを観察するのは、周りと自分を比較するためではなく、周りが「なぜそんな行動をしているのか?」を考えるためです。当然本人は周りを観察することによって、「自分は、なぜそうするのか?」を考えるようになっていきます。

▼ 「考える力」を育むのは?

考える力を育むのは「もっと考えろ」と言って、考えるようになるわけではありません。子どもが考えて話せるようになるために、保護者が工夫して話しかけることは大切だと思います。人間関係の基本はコミニケーションですから、親がコミニケーションの大切さを疎かにしないことにより、子どもはその大切さを学んでいくと思います。その大切さを学んでくれれば、子どもは自分のコミュニティーの中で多くの素晴らしい人間関係を築いていくでしょう。

ちなみに、考えて行動することが習慣になっている卒業生は、インサイドリフティングの足の関節が固いので、自転車に乗るときにインサイドリフティングのフォームで漕いで関節を柔らかくする子や、カカトリフティングの足の動きをスムーズにするために、カカトを上げながら歩いたりする子がいました。些細なことですが、他のことに対しても、「目的に対して、自ら考えて行動」していました。


2. ボールタッチ を育む
▼ 自分の意志でボールを触る声掛け

ボールをたくさん触った方が上手くなることは間違いありません。チーム以外の時間に自然とボールを触るようになるために、保護者の方のこんな関わり方はどうでしょうか?

例えば、家でテレビを観ている子どもが「いつボールを触り出すかな?」と待っていても、低学年なら何かを夢中になっているときは、自分からボールを触りません。自主性を育みたいから、自分からボールを触り出すまで我慢して待ち続けようと思っても、たぶんいつまで待っても、自分から練習しないでしょう。なぜなら、「今やっていることに「夢中」になる。」それが子どもの特徴だからです。ならば無理やり練習させるというのも、何かが違う…。そんなときにこんな声かけはどうでしょうか?

「最近チームで、どんなことを練習してるの?見せてほしいわ!」

「あのドリブルどうやってやるの?コツを教えてほしいわ!」

「あのネイマールのプレー、どうやってやってるの?」

そんな少しでもボールを触り始めるキッカケを与えたら、ボールを触ることに「夢中」になり、テレビの事は忘れます。なぜなら、子どもは「今やっていることに「夢中」になる。」からです。そしてこの時も、

「今のは、どうやってやったん?そんなこと出来るようになったんや!」

などと興味や関心を持って、接してあげてください。そのようなやり取りの中で、5分ぐらいボールを触っても、やっぱり子どもが他のことを選ぶなら、その時はまだサッカーに「夢中」になっていないということです。無理にはさせずに、本人の意志を尊重してあげましょう。

しかし、そんな関わり方を繰り返し続けているうちに、気がつけば自分で常にボールを触るようになっていきます。自主練をするという意識ではなく、ボールと戯れることが楽しくなり、一番の遊びになっていきます。そんな関わり方が want (〜したい) という自主性を育んでいくのではないでしょうか?

また、家の中で自然とボールを触れる環境があれば、自然なボールタッチが身につきます。家庭によってはボールが使用できない場合もあるでしょうが、その際に触るボールは本物のサッカーボールでなくても、クッションボールでもすごく効果があると思います。

卒業生の中には、ボールに名前をつけて友達と呼び、彼は食事中も勉強中もずっと足元にボールを置いて、挙げ句の果てには寝るときにもボールを抱きかかえて寝ている姿をお父さんの写真で見せてもらいました 笑 。ちなみに言うまでもなく、その選手は今でもサッカーが大好きで抜群に上手いです。


3. サッカーの理解 を育む

サッカーをあまり観たことがないのに、サッカーの技術練習をしている。これっておかしくないですか?「木を見て森を見ず」実際サッカーをあまり観たことのない子の動き方は、技術は巧くなっていても、おかしな動きになります。

それを、コーチが「こう動く。ああ動く。」と教えても、その子が、サッカーを観たり観察したことがなければ、何の話をしているのか理解できないどころか、その動きだけを覚えることにつながります。今の時代、サッカーの試合を見れる機会は、ネット環境のお陰でいろいろとあります。しかし、低学年の子どもが、ずっとサッカーの試合を観るのは、すぐに飽きてしまいます。無理やり観せるのも must (〜しなければならない) を増やしているだけ。

▼ ゲームから学ぶ

どうすればサッカーを観る面白さに気づかせ、そのキッカケを与えられるのか?そんなときにサッカーゲームというきっかけはどうでしょうか?最近のサッカーゲームはリアルさが増し、子どもは自然とサッカーを理解しながら遊ぶようになります。ゲームに勝つために、オフザボールの動きやオフサイドも理解します。但し言うまでもなく、あくまでもゲームはほどほどに。

▼ サッカーの試合を観て、面白いと思う!

また、きっかけとなるゲームを通じてサッカー選手を覚えると、その選手の実際のプレーに興味がわきます。ゴール特集を観るだけではなく、実際のサッカーの試合を観ることが面白くなり、サッカーを理解することにつながっていきます。そうなれば、サッカーをあまり観たことがないのに、サッカーの技術練習をしている。そんな不思議なことにはならず、あの試合を観たい。あの選手を観たい。こんなプレーをしたい。あんなプレーをしたい。

その want(〜したい) こそ、サッカーへの情熱の原動力です。


以上が、大きく分けたときに、保護者の方のサポートとして、我々指導者も非常に助かる接し方だと考えています。また、ここに書いていることはあくまでも、私自身のこれまでの経験を踏まえた上で書かせて頂いているので、この方法が正しかったり、ベストな判断かどうかは各家庭環境によっても異なると思います。

ただ、間違いないのは、指導者-選手-保護者のトライアングルが同じ方向を向く中で、互いに信頼して彼らの wan t (〜したい) のレベルを上げていくことが、子どもたちの成長には欠かせないのではないでしょうか。

今後も彼らから学び、共に成長していけるよう頑張ります!

FC Salva 代表監督
白井 洸