▼ シャビは誰よりも速くプレーする
シャビの前でボルトのスピードも、ベイルやクリスティアーノ・ロナウドのスピードも敵にならない。フットボールにおいて、最も大切な要素は時間と空間の2つであると教えられることが多い。
その論理でいくと、フィジカルインテンシティが大きなウェイトを占める。単純に速く動くことができることで、相手よりも速く有利なポジションを取り、スペースにおいても有利に立ち回ることができる。そう認識した一部の指導者は、フィジカルを向上することに全力を注ぐのだろう。
しかし、これはとんでもない誤認である。
▼ 最も大事なのは「タイミング」
空間の中で最善の時をつかむ。それによってどんなスピードも上回り、時間も空間も支配できるのだ。まさに時計の針を数秒止められるかのようにーーー。
シャビやモストボイのような名手たちは、ピッチの中でしばしば止まったように映る。激しい動きの中で、不意にテンポを落とす。それはPAUSA(パウサ/停止)というボタンを押したかのようでもあるのだが、彼らが止まるとき、相手をすでに術にはめている。
停止したかに見える彼らは、次のシーンでは早送りをしたように、いつのまにかプレーを好転させてしまう。実際に停止しているのは、動きを読まれた敵のほうなのだ。
止まることによって、敵のスピードを利用する。逆手にとって緩急の変化を生み出せば、プレーテンポは自ずと上がっていく。猛然と駆け寄ってきた相手の逆を取り、囲い込まれてもそこからくるりとターンして逆から抜け出し、いきなりざくりと切り裂くスルーパスを放つのだ。
最も重要なのはタイミング
「優秀な選手を育てるには運動能力テストを行い、その数値が高い選手を中心にフットボーラーも育てるべき。とくに、足の速さは欠かせないだろう。」これはフィジカルインテンシティへの幻想に過ぎず、暴言も甚だしい。
「まったく同じプレーは二度と起こらないのがフットボール」
ならば、臨機応変のタイミングだけがプレーを打開する足掛かりになる。だからこそ、私はスピード信仰に異を唱える。無思慮に走り込んでは、せっかくのスペースを自ら潰してしまう。スピードの誤用は墓穴を掘ることになる。
▼ プレーを創造する
スペインの一流の定義は
「周りを輝かし、自らも輝く」フランク・ライカールトはイニエスタのタイミングを、
「イニエスタはパスをするのではない。キャラメルを配っているんだ。」人が走る速さに惑わされてはならない。頭がフル回転し、最高のタイミングを探れているか。そこにフットボールの極意はあり、転がるボールを見れば、その答えはおのずと伝わってくる。
マラドーナは速くなかったからタイミングを見つけ続け、いつしか誰よりも速くなった。プレーを創造することができるようになった。
(「戦術」への挑戦状より抜粋)
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