▼ 心を奪われてしまったあの日の衝撃

指導者になった一年目、19歳の夏、当時私がお世話になっていた今は無き吹田の某JYの選手たちが三重県名張市のフェスティバルに参加しました。

当時のHコーチの粋な計らいで、指導者一年目にも関わらず、そのフェスティバルで私はAチームの担当を任されました。

※こちらのメンバーはその年の全日本フットサルユースにて大分トリニータと激戦の末、準決勝敗退も、全国ベスト4の年代だったので、選手一人ひとりが本当に上手く、当時指導者一年目の私は毎試合彼らを見ては「最近の中学生は上手いな〜」と感心していました。

そしてこのフェスティバルにて自分の人生が大きく変わる “衝撃的な出会い” がありました…

相変わらずどんな試合でも上手さを見せつけて相手を内容で大きく上回ってくる選手たち。

私も若さがゆえに、ただただサイドコーチングで熱く彼らを鼓舞し、奮い立たせようと声を出し続けていました。

そして初日の予選リーグも無事に全勝して、二日目の決勝トーナメントに進出。

そして迎えた翌日、準決勝の相手は滋賀のセゾンFC。

お恥ずかしながら当時の私はセゾンのことなど知らず、ウォーミングアップでの彼らのやる気のなさそうな様子を見て、

「これが本当に勝ち上がってきた対戦相手なのか!?」と思いつつも、油断はできないと試合前に選手たちとミーティングをしてピッチに送り出しました。

そして気合十分で臨んだ試合は、私の予想とは大きく違った試合となりました…

試合が始まってすぐ、いつものようにこちらがボールを持って勢いよく攻撃に出るのですが、あと一歩のところで防がれます。

私もボールを奪われるたびに「切り替えろ!◯番をマークしろ!ポジションの修正!」などとサイドコーチングで声を出し続けます。

しかし試合が5分を過ぎたあたりからようやく違和感に気がつきはじめました…

「セゾンの選手のボールが全く取れない!?」

こちらは奪われても私の声とともにすぐさま切り替えて選手たちが激しく奪いにかかるのですが、それでもセゾンの選手からボールが取れない。

しかも彼らは慌てるどころか、飛び込んだところをパッと交わされたり、こちらが取れたと思う直前にパスを出されたり、何をどうあがいてもボールが全然奪えないのです。

それどころか、ほとんどの選手が歩いてプレーしている。

「えっ、嘘やろ!?なんやこのチーム!!」

そして相手のベンチからは強面のいかつい男性がセゾンの選手たちに怒鳴っている。

しかし、様子がおかしい。

なぜなら、怒鳴って怒ってはいるのだが、決してセゾンの選手がボールを奪われたりミスをしたから言われているわけではないからだ。

よくよく冷静になって指示を聞いてみると、

「攻めないふりして攻めろ!」

「走るな!歩け!」

「◯◯!後ろを向いた時は前にパスを出す時や!」

私「えっ!?何なん??どういうこと!?あの人は何に対して怒ってんの!?」

目の前で繰り広げられる展開に、もう訳が分かりませんでした…

それでも尚、私は選手たちに激しく奪いに行くように怒鳴れば怒鳴るほど、それを嘲笑うかのようにセゾンの選手たちに簡単に剥がされてはゴール前まで持っていかれる。

それなのにセゾンの選手たちはペナルティエリアにも関わらず、全くシュートを打たずにいつまでもパスを回し続けている…

「俺らは点なんかいつでも取れるけど?」

プレーをしている彼らの姿からは、まるでそのような会話が聞こえてきそうなほどだった。

そして圧倒的にボールを持たれ続けた試合も終わってみればスコアは0-1。

いや、むしろスコアなんて何も気にならず、ただただ、試合が終わって呆然と立ち尽くすしかなかったのを覚えている。

自分自身が小学生の時から一生懸命夢に向かって頑張ってきたサッカー。

これまで自分がやってきたサッカーは何だったのか…

決してなにかを言われたわけではないのに、目の前のプレーでこれまでのやってきたことの全てを否定されて崩されたかのような感覚。

帰りのバスの中では悔しくて虚しくて、勝手に涙が溢れて止まらなかった…

そして帰ってから冷静に考え直すと、とにかく今自分が知っているサッカーではあれだけすごい選手を育てることなんて到底できない、まずは自分自身があのサッカーを勉強しようと、そう心に決めたのです。

それが私と岩谷篤人氏(セゾンFC)との出会いでした。

そして時は流れ…

32歳の冬、衝撃的な出会いから13年の時を経て、再び心にイナズマが走りました。

『1992年 全国大会ジュニアユース
セゾン(中2中心) vs 横浜マリノス』

岩谷さんの息子さんである一毅さんたちの年代が1つ上の全国大会で試合をしていた時の映像が見つかり、フットユニオンジャパンの会員メンバーたちと共に鑑賞をすることに…

画質の荒さや選手たちのユニフォーム姿を見るとたしかに今から約30年も前の映像だと言うことだけはハッキリと分かります。

しかし試合が始まれば、もう開いた口が塞がらない…

どう見ても小学生vs高校生のような身長差が20cm以上はあろうかという体格差のある選手たちに対して、セゾンの選手たちは “全く恐れていない” のです。

それどころか相手が来る瞬間にパスを出したりドリで抜いたりして、まるで相手の力を利用しているかのように翻弄している。

極め付けは、試合中に立ち止まる。

歩きながらプレーする。

敵が寄せてきたところをフェイントをかけて股を抜いてパスを出す。

ボールになんか全く縛られていない。

約30年前のこの時代に…

しかも全国大会であのマリノス(優勝チーム)相手に…

今でこそバルセロナやスペイン、そしてヨーロッパや世界各地から様々な良質な情報が入る日本において “パスを繋いでいく” ことは小学生年代でも基本的な考えとして植え付けられてきました。

優秀な指導者、熱心な指導者、人と人との繋がりの中で今の日本は本当に数多くの恩恵がもたらされていると思います。

そんな中で、自分が一人のサッカーコーチとして、何を目指し、何を学び、どのように指導をしていくのか、

そのようなことと向き合いながら多くの方が指導者としてのこれからの道を模索しているのではないでしょうか。

かく言う私もその一人です。

ただ、私自身も自分に必要だと思う知識や、能力を開発するために、色々なことから素直に学ぼうという心構えはあるのですが、

いつも根幹にあるのは、このスポーツの成り立ちはヨーロッパだということ。

そこから様々な発展を遂げて、世界各地の地域ごとに自分たちの国や人柄、文化や考え方などをベースにおいて今現在の “カタチ” が作られていると思っています。

ですからヨーロッパや南米の考え方ややり方から学ぶことは非常に重要なことだと思う反面、それらはあくまで彼らにとっての有利な方法にしか過ぎないとも考えています。

では、日本は世界とどう戦っていくべきか?

私自身、世界と戦うために、などと偉そうなことを言える立場ではないですが、

職業として、プロサッカーコーチとして生きていく以上、

子どもたちとともに夢を追いかけ、夢に追いつき、夢を追い越せるような人生を目指す以上、

日本には日本人にしかできない、考え方や魅力を体現する指導者がいると知ってしまった以上、

この人生をどうしても今の日本のサッカー界に一石を投じたいと真剣に思っています。

そしてそれは、紛れもなく、すべては岩谷篤人氏(セゾンFC)との出会いから自分のサッカー観と人生の楽しみ方を変えてもらったと言い切れます。

同じ日本の中とはいえ、真剣勝負の舞台で、日本のトップレベルとの選手たちとの試合で、

学年が1つ下でも、体格差が頭1つ違ったとしても、

『相手の目線を釘付けにし、頭の中を止め、相手の足が立ち止まり、相手の速さを無にすること。これを意図的に連続して行うことさえできれば、相手がどれだけ守ろうとしても盗むことはできる。』

それは世界と戦う上で、どうしても必要なことで、決して作戦版の上では語ることのできないものだと信じています。

指導者一年目の衝撃的な出会いから月日は流れ、そして昨日、改めて見た映像によって再び自分の心に火がつきました。

私はこんなサッカーがしたくて指導者として生きていく決意をしたのだと…

サルヴァ ジ ソウザ
代表 白井 洸

(2018年11月)


▼ 岩谷招待2019の報告

1/20(土)21(日)の二日間はU-11(サルヴァは3〜5年で参加)を連れて野洲高校まで、毎年恒例のFOOT UNION JAPAN主催の岩谷招待というフェスティバルに参加させていただきました。

全国各地から様々なチームが集まり二日間に渡って試合を行う交流フェスティバルですが、その魅力はなんと言っても全チームの試合を岩谷篤人氏(乾貴士を輩出したセゾンFC総監督)に見てもらい、試合の合間や夜の懇親会で直接アドバイスをいただけるというもの。

我々も毎年この岩谷招待でサルヴァの選手を見てもらっては、自分自身がこの一年何を取り組んできたのか、今の自分に足りないことはなんなのかを、岩谷さんの意見や感想を頼りにその後の一年間の指導に活かしてきました。

また今回は岩谷さんが去年の4月から月一回程度のペースで教えられてる三重県のFC FAMILIA U-10(FOOT UNION JAPAN代表・北口さんのチーム)も参加していて、間近で岩谷さんの指示などを聞いて勉強させていただきました。

てか…

ハッキリ言って衝撃的です…

何が衝撃的かと言うと、去年の4月の最初の練習で私は実際にFAMILIAの練習を見学させていただいたので選手のレベルは知っていました。

そこから8月に一度見させてもらった時も、U-10はおろか、どのカテゴリーでも聞いたことのないようなテーマと指示で選手たちにプレーを要求し、私もいつものことながらこの指導方法には一体どのようなことが狙いとして隠されているのかということをあれからずっと考えていました。

そして約5ヶ月ぶりの彼らのプレーを見て驚きました…

「本当にあれが去年見た彼らなのか!?いやいや、めっちゃ上手いやん…というか、そんな騙し方するんや!?」

どのように指導をすれば選手がこのようなプレーをするようになるのか…

私が14年前に初めてセゾンを見た時の光景がそこにはありました。

ただ、あの頃と少し違うのは、私は今現在FOOT UNION JAPANのメンバーであり、副代表であり、大変ありがたいことに、定期的に岩谷氏とお会いしてディスカッションを重ねる中で、ほんの少しずつではありますが、なぜ選手たちがそのようなプレーをするようになるのかといった理由や経緯を、すぐ間近で見て勉強できる機会があり、知ることができているということ。

ただし、岩谷氏の指導は見て聞いて誰もが真似のできる指導方法では決してないので、知らない人からすると一見すれば今は何をやらせているのか?と目を疑うような試合やテーマで練習を行っていることもよくあります。

ただしその数ヶ月先にはそこから想像することもできないようなとんでもない成果として目に見えて帰ってくるという光景をこれまでにも何度も見てきたのですが、今回のU-10については小学生のこの年代で、そしてわずか一年にも満たない期間で、それも月に1回しか教えに行っていないというのに、なぜ選手たちがこうなってしまうのか…という指導を見てしまえば、毎度のことながら、自分の指導者としてのショボさに失望すると同時に、

「いやいや、俺まだ30代前半やから今は分からんくても、今から分かろうとし続けることで、40代くらいになったらこの先指導者として花開くんとちゃうの?」

と言った、自分に対する慰めの言葉をかけては、また一段とやる気を出す日々を送らせていただいています。

そして気がつけばまたこの仕事に対する誇りと、自分自身の生き方に対する決意を掲げて、また今日からやってやろうという気になっていつも別れの時間がやってきます…

とかくまぁ、そんなこんなで話が長くなってしまいましたが、またさらに白井の情熱と意欲が突き抜けてしまいそうになったという話で今回の岩谷招待2019の報告は終わりとさせていただきます。笑

参加された皆さま、本当にありがとうございました!
m(_ _)m

サルヴァ ジ ソウザ
代表 白井 洸

(2019年1月)